【全文公開】大学スポーツシンポジウム 事前勉強会報告
シンポジウムに先立って行われました、事前勉強会の内容を報告させていただきます、東京大学ア式蹴球部女子4年、大坪佳夏子と申します。よろしくお願いします。
発表はこのような流れで進めさせていただきます。
まず簡単に自己紹介させていただきます。
私の所属先、ア式蹴球部女子とは、女子サッカー部のことです。 学部は法学部で、スポーツ行政に興味があり、今年の夏休みには今日の登壇者である仙台参事官のもと、スポーツ庁でインターンをさせていただきました。
自己紹介の最後に、私が大学スポーツのさらなる価値を感じるきっかけになった、「文京LBレディース」というチームについて紹介させてください。
文京LBレディースは東大女子サッカー部と文京区の連携で発足した女子サッカーチームです。東大女子サッカー部と練習や試合を一緒に行っています。地元企業を始め、協賛もいただいております。
幅広い年齢層、様々なサッカー歴、地域とのつながりが特徴です。
新たな地域コミュニティーがサッカーを通して生まれたといえ、私が大学運動部の更なる可能性を感じるきっかけになりました。
では、事前勉強会の概要に入ります。
二回の勉強会を通して、四人の講師の方にご講演いただき、学生同士でディスカッションを行いました。日ごろから持っていた問題意識を講師の方にぶつけたり、学生同士で意見交換をしたりと活発な議論が行われました。
第一回にはスポーツ庁の渡邊様、同志社大学の川井教授をお招きし、日本版NCAAに向けた現在の取り組み、アメリカNCAAの歴史と現状について理解を深めました。
第二回には岩政大樹選手、順天堂大学の小笠原教授をお迎えし、 大学スポーツの意義、女性アスリート支援、一般学生向けのレクリエーションスポーツといった視点が加わりました。
続いて、講演と学生間のディスカッションを通して出た、主な論点を整理します。 事前勉強会では大学スポーツにおける様々な講義がなされましたが、とりわけ以下の10個を、学生にとって重要な議論として挙げさせていただきます。一つ一つの説明は後ほどいたします。この10個は、重なる部分もありますが、次の二つの視点で分類することができると考えます。
二つの視点とは、NCAAのような大学スポーツの統括組織のルール作りという点と、各大学ごとの組織整備という点です。
統括組織のルール作りという面では、この6つの議論が出ました。赤字のものについては後ほどピックアップしてお話しさせていただきます。
①として、日本版NCAAという名にとらわれ、NCAAの仕組みを導入するのではなく、NCAAの歴史を学んだうえで、、日本の文化にあった統括組織を作るべきではないかという議論がなされました。 日本の大学教育の大きな価値である学生主体を守る組織を作るべきであり、統括組織においても、学生が意思決定に関わるべきではないかという議論を挙げました。
④は、女性アスリートへの支援を充実させるべきではないかという意見です。 男性と女性では、生物学上無視できない明確な差異があることを考慮する必要があるのではないでしょうか。アメリカのNCAAでは、女性スポーツによってスポーツの公平性や機会均等の議論が加速したことを学びました。
⑤は、学生の安全が最大限に守られるべきであるということでこれはNCAA創設のきっかけになった動機でもあります。
⑦、⑧は、学業についてです。 勉強会ではアメリカNCAAにおける学業成績の基準が形骸化している問題が共有され、日本の大学スポーツにおける学業軽視の問題は中学、高校の段階からの教育に問題があるのではないかと言う議論がなされました。
⑨、⑩は、アメリカNCAAで問題視されている、勝利至上主義を抑制するルール作りをするべきではないかというものです。 指導者のサラリーキャップを定めることや、収益化に成功した場合に収益分配の際に競技成績以外の基準も設けることが一案です。
共通している②・④・⑤・⑦⑧に加え、各大学ごとの取り組みが必要と考えられるものがあります。 ③は運動部に所属している学生に比べ圧倒的多数の一般学生が、観戦やレクリエーションスポーツを通して大学スポーツに参加できる場を用意するべきではないかという意見が出ました。
⑥は、大学は学内の資源を活用して環境整備をするべき、そのためにアスレチックデパートメントのような各大学での組織整備が必要ではないかという議論です 。
紹介したものの中から、特に重要だと思うものを取り上げます。
まず、②の学生主体についてです。
勉強会では、大学スポーツは元来、学生のためのものであると考える人がほとんどでした。
学生の自主性を担保するために、各大学のアスレチックデパートメントに各部活の代表学生と一般学生によって構成される部局を組織し、統括組織においても、構成する大学の学生代表を派遣するなど、意思決定プロセスに学生が関わる形にすべきという意見が出ました。
続いて、学生の安全についてです。
これはアメリカNCAAの出発点となった視点です。
私自身、学生の安全確保に明確に危機を感じる出来事がありました。サッカー部の後輩が、体育の授業でサッカーをしていて手首を骨折した時、担当教員の方が十分な措置を取ってくれなかったと聞いたのです。同じ授業だった部活の仲間で大学の保健センターへ運んだそうですが、その保健センターは整形外科医が常駐しているわけではないのです。
病院との連携、トレーナーの派遣など、運動部学生・一般学生問わず安心してスポーツに取り組める環境の整備が必要です。
⑦、⑧は学業についてです。
大学在学中の問題として、終日の練習や、公式戦の平日開催によって授業に参加できない運動部学生が存在するということが挙げられます。
また練習以外にも、運営業務の負担が少数の学生に集中してしまう場合が多いなど、
運動部の活動が部員を縛っている場合があります。
平日の試合開催については、これまで競技によって大学スポーツ連盟が分かれていたことが一因と考えられ、統括組織がシーズンをずらすなど連盟間の調整を行い会場の奪い合いがなくなれば、解決できる可能性があるかもしれません。運営人材については、統括組織から専門家を派遣することが考えられます。
また、学業との両立を目指すことで、量より質、練習の効率化へ踏み出す足掛かりになるのではないでしょうか。
学業の問題は、大学に限ったことではありません。根っこの問題は中高での教育にあるのではないでしょうか。
現在は高校においても競技で高い実績を持つ学生を対象にスポーツクラスを設置する学校が多く、大学でのスポーツ推薦においても学力がほとんど審査されていないケースが多いです。そのため競技の実績のみで大学まで進学できる場合があり、そのような学生の学力は非常に低い場合が多く、人材育成機関という大学の重要な機能が軽視されてしまっており、競技引退後のセカンドキャリアにも影響が出ると考えられます。
例えば、大学のスポーツ推薦入試においても統一の試験を課すことで、大学アスリートの最低限の学力を保証するだけでなく、高校年代における競技偏重のカリキュラムを見直すことにつなげられるのではないでしょうか。
次にサラリーキャップについて取り上げます。
勉強会では、現場の指導者が勝利至上主義に陥らないために、サラリーキャップを定め、成績に応じた給料の取り決めを禁止することが提案されました。
コーチやスタッフの給料に制限を設けることで、大学間の終わりのない軍拡競争を制限すべきだというのが理由です。
一方で、契約更新等は競技の成績が必ず絡むこと、給料が低すぎると優秀な指導者を雇用することができないことなど、難しい問題があります。
加えて考えなければならないのは、大学スポーツの価値は競技成績だけなのか、ということです。私は、勝利すること以外にも、大学スポーツには価値があると信じているからこそ、初心者の多い、つまり弱い、東大女子サッカー部で活動しています。たとえ0対10で負けても、そこに至るまでが無駄とは思いません。人数が少なく実力のない部だからこそ、冒頭の文京LBレディース発足が提起されたという面もあります。
全体を通しての課題としては、 統括組織の結成だけでは対処できない、各大学の取り組みが必要な問題があるにも関わらず、統括組織の整備に並行した各々の大学における組織整備の議論が進んでいないのではないかということが挙がりました。
具体的には、一般学生向けのスポーツ機会の創出、女性アスリート支援、学術研究との連携、施設整備といったことは各大学での取り組みが重要と考えました。
これらの議論は、たった二回の勉強会で、初めて聞く話もあるような学生が出したもので、稚拙な点、足りない視点が多々あると思います。しかし、大学スポーツの当事者である学生が真剣に考え出したものです。未熟だというだけで一蹴しないで欲しい、と思います。
私は小さいころ、こんな風に人前で話せるような子ではありませんでした。小1からサッカーを始めて人見知りがなくなり、積極的な人間になりました。サッカーが私を育ててくれました。 大学でもそれは同じです。部活をしていることでできないこともたくさんありました。
しかし、スポーツに本気で取り組むことで、部員間の意識統一、部で起こっている問題の洗い出し、解決策の検討、意見の集約と、社会で活かせる、ここでしか学べないことがたくさんあったと思います。
いつか、ノーベル賞受賞数と同じように、は言い過ぎかもしれませんが、スポーツでの成果が大学の価値となるようになって欲しい。
そしてゆくゆくはスポーツ人口が増え、日本中でスポーツの価値が高まって欲しい、と思います。
以上で報告を終わります。ありがとうございました。
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