【全文公開】大学スポーツシンポジウム　　パネルディスカッション①

原田圭　一般社団法人ユニサカ代表理事

ディスカッションの方に移りたいと思います。自己紹介がまだの方もいるので3名の方から自己紹介と大学スポーツに期待することをお聞きしたいと思います。

 為末大　一般社団法人アスリートソサエティ代表理事(以下、為末)

 みなさんこんにちは、為末と申します。

 本当に学生が主体となってというところが素晴らしいなと思いまして、 私が学生の時は、授業に出た回数が10回ないのではないかという学生でして、決してこのような場所に出てはいけない大学生活を歩み、最終的に1年留年をいたしましたが、当時のメディアは私がメダルをとったため、好意的で「メダルを取るために1年留年し競技に集中した」というように記事に書かれました。実際には単位が取れなかっただけだったのですが。笑 

 今日色々な議論がここにあり、本当に心強いと思いました。 私が大学生の頃の経験から二つほど、今の大学スポーツをここを「これは変えたほうがいいのではないか」という意見があります。

 一つは、私は大学生が主体となっていくことはかなり難しいと思っていまして、現状、多くの大学ではOBが主体となっているというところが結構あります。 おそらく、日本版NCAAの話も、大学が承認してもOBが承認しないという場合が結構あると思います。 つまり、大学は特殊な所で、後輩を応援したいという思いもあるんでしょうけど、あまりにも多くの人が、長い間関わってきているため、全体のコンセンサスをどうやってとるのか、といううことがかなり重要だなと思います。 私は大学生が主体となったほうがいいと思います。日本のスポーツ産業では、経営・運営サイドの人材が不足しているため、競技サイドだけでなく運営サイドの人間の成長の機会・環境とした方がいいと思います。

  二つ目は、セカンドキャリアについて考えることですね。 私が子供の頃は、小学校から、いいアスリートはスポーツだけやってればいいという、「一意専心」型のスポーツ教育がされていました。スポーツがある一定のレベルに達すれば、必ず社会で通用すると言われて育ってきたんですが、競技だけに集中してきた結果、引退するときに、案外社会に出てうまくいってない人間が多いという現実があるんです。 この事実をスポーツ界はいい加減認めるべきじゃないかと思うんですね。 

スポーツは本当に人を育てるのか？ 私は、育てるとは思っていますが、使いようによると思います。 スポーツも人を育てるように使っていかなくては、引退してから社会でやっていけないアスリートを増やしてしまいます。 大学スポーツが変われば日本のスポーツが変わるかはわからないが、大きな可能性を秘めていると思います。 例えば、箱根駅伝の大学が変わればそこを目指す高校生は変わり中学生が変わると思うし、 大学が変わり、そこでスポーツをしてきた学生が小中高の指導者となれば、どんどん変わっていくと思います。 もし、大学スポーツがスポーツを人間を育てるために使うのであれば、そこから日本のスポーツ教育が一気に変わる可能性があるんです。 つまり、キャリアの入り口になる大学が変わっていくことがかなり重要になります。

 野田恵美氏(以下、野田)

 皆さんこんにちは、野田直美と申します。本日はこのような機会を頂きましてありがとうございます。私の自己紹介を簡単にさせて頂くのですけれど、今現在は、プロサッカークラブの選手の育成におけるコンサルティングを担当しています。

NCAAと私の関係については、私自身小学生の時からサッカーを経験していまして、2013年から2015年の3シーズンにわたって、向こうのディビジョン２の本当に小さなアメリカ人も知らないような大学だったんですけれども、そちらの大学に、日本で大学を出た後に編入という形で行かせて頂きまして、女子サッカー部のメンバーとして大学生活を送った後に、２年目から大学院の方に移ってMBAの勉強をさせて頂きました。そんな中で、NCAAと聞くと、ディビジョン１の本当に大きなスタジアムだったり、大きな集客力だったり、本当にトップトップのプロになっていくようなアスリートを抱えたような大学のイメージを持たれているかと思うのですが、そんなところではなくて、私の行っていたような小さな大学でもNCAAにいたような大学、そういったところで色々見たり感じたことを皆さんと共有できたらなと思っております。 

大学のスポーツ改革において期待すること、ということなんですけれども、私も、このシンポジウムに先駆けて行われた事前勉強会の方に参加させていただきました。その中で本当に学生の方々が自分たちの大学スポーツを今後どうやって盛り上げていったら良いのかだとか、課題は何なのかを本当にすごく熱心に高いアンテナを張って学習されていて、今後の大学スポーツの振興だったり、そういったところにすごく価値だったり可能性を感じています。

今回も本当にたくさんの方々がいらっしゃっていて、皆さん色々な立場、OBだったり体育会学生、一般の学生、教員の方など色々な方々がいらっしゃると思うんですけれど、皆さんの立場でしか見られていないこと、課題・問題として見られていること、そんなことを皆さんならではの視点で色々発信していってもらって、日本の大学スポーツを変えていっていけたらいいなというふうに思っております。

 藤井圭　スポーツ東洋　編集長(以下、藤井)  

東洋大学のスポーツ新聞部で編集長をやらせていただいております藤井圭と申します。前に話して頂いた二人と比べると本当に何も特に話す経歴はないというか、埼玉で生まれて東京の高校に出て今東洋の大学に行っているだけで限りなく一般の学生、まあ一般学生なんですけれども、原田さんからホームページ用の経歴のプロフィールを下さいと言われたんですけれどもやはり考えても特に今までやってきたことって全然なくて結局誕生日とか簡単なものしか無くて特になかったんですけれども、自分は本当に一般学生としての意見を言えればいいかなと思います。ですのでやわらかく、やわらかく、皆さん多分堅い感じで意見をおっしゃってくれると思うので自分は柔らかく行こうと思います。って言っている自分が一番堅いんですけど。

東洋大学スポーツ新聞部は東洋大学の部活動を取り上げている新聞部なんですけれども、ほかにも学生新聞の方々いらっしゃってると思うんですけれどもまだ16年くらいで歴史も浅くですね、なんとか先輩方がつなげてくれてようやく積み重なっていたものようやく今日認めていただけたといいますか、大学のスポーツ新聞部にも声をかけていただいたということが、自分どうこうということよりも東洋大学のスポーツ新聞が認めていただいたということで大変うれしく思います。大学スポーツのきましてもやはり一般学生の認知度というものが未だに低くて、昨年のオリンピックが行われるまでは陸上の桐生選手だったり水泳の萩野選手が東洋大学出身であるということを知っている学生もかなり少なくて、去年リオオリンピックで大学が宣伝をし始めてから、「あ、そうだったんだ」という人も結構多かったりしまして、もっと学内でたくさん宣伝といいますか、学内での認知度がもっと上がっていけばいいと思います。先ほど事前勉強会の発表の方もおっしゃっていたんですが、今日は未熟な発言をすると思うので、未熟で終わらせないで、お願いします。 

 原田 

ありがとうございます。では、ディスカッションの方に移らせていただきます。 本シンポジウムを開催するにあたって僕たちは大学スポーツに携わる多くの有識者の方々、学生からご意見を伺いました。その中で大学スポーツの役割に対す考えはる3つあるな思いまして、述べさせて頂きます。

 一つは国力強化です。スポーツの域を超えて、大学の価値を向上させる有効な手段であるという考え方です。日本のトップである東京大学ですら、現在世界の大学ランキングでは46位という順位になっています。トップテンだった時代もありましたから、明確に力が落ちています。 アジア1位はシンガポール大学で、現在は1位でもないです。明らかに大学の弱体化が起きています。 寄付金の収入に関しても、明らかに桁が違います。ハーバード大学とも明らかに予算の規模感が違います。教授の平均年収に関しても、倍以上違います。 そしてこれは、ハーバードと日本の問題と言うだけではなくて、アジアの有力な大学と日本の大学でもこのような違いが生まれてしまっています。まさにAIの現場でも起きているように、英語さえできれば優秀な人材は海外へ引き抜かれていっています。

これは大学の価値の低下というよりむしろ国力の低下に繋がっていると言う方もいます。 そして、大学の価値を高める手段の一つとしてスポーツがありますと言う考え方です。 アメリカの大学スポーツというのは会場が超満員で、半端ない盛り上がりを見せています。 これはアメリカの成功事例として、スポーツを通じたロイヤリティーの醸成があります。 同窓会で集まった時もまずは大学のスポーツの話をするのと言うのは有名な話ですけど、 ロイヤリティーの醸成によって寄付金を含めた収入が増加して、それを教育へ再投資されると学校の価値が上がり、それがすなわち国力の強化に繋がるという考え方ですね。 

次は競技力の向上です。これは学業とか、大学生活とかはどうでもよくて、自分がオリンピックに出れればいい、プロになれればいい、試合に出て勝てればいいというという現在の大学にありがちな考え方ですね。事前のアンケートでも、明確にこのような数字が出ています。 学力の充実には正直関心がないなというところです。

 3つ目はは学生の人間的向上ですけど、これは一部のエリートと呼ばれる学校の学生に多く見られる考え方だと思います。大学スポーツは大学教育の一環ですので、国であったり、産業界の利害に関わらず、学生個人が得られるものを大きくしようというものです。学生主体というのはここに近い代表的な考え方だと思います。 それぞれの立場があって、それぞれのバックボーンがあって、それぞれが正しいと言えば正しいと思うのですが、安西先生は大学スポーツの価値はどこにあると思いますか？

 安西祐一郎　全国大学体育連合　会長(以下、安西)

 まず、大学スポーツというものは誰がやっているのか、ということです。 体育会？みんな？と、それぞれで違うが、 私の理解はみんなでやってるものです。 その上で大学スポーツの価値は何か？と問われれば、人間力の向上はもちろんですが、 申し上げたいのは、大学というものはその大学だけで生きているわけではないということです。その大学、学生も含めて、地域、周りの社会と一緒に生きていいます。

 では、そのコミュニティにどのように貢献するのか、というのも価値の一つです。 人間力の向上などは当然のことだと思います。 是非申し上げたいのは、このような議論で、自分の大学、自分のクラブの中で、どういう風にしていくのか？学連をどうしていったらいいかな？と考えがちだが、大学スポーツの価値は、もっと大きな所にあると思ういます。 例えば、大学スポーツが地域社会の人口減少などにも貢献できるだろうとも思います。  

為末

 世界の大学との寄付金の差が挙げられましたが、日本の寄付税制が変われば、寄付金の額も変わると思います。 アメリカにいて感じたのは大学スポーツの「ビジネス」の側面です。実際、NCAAでは、ビジネス・金儲けの側面がかなり大きくて、 私がサンディエゴにいた時の話ですが、数億円のサラリーがアメフトのコーチに支払われていました。これは相当なビジネスがされていなければできないことです。 日本でいうと、箱根駅伝の監督に一億円のサラリーが支払われるようなことですからね。 NCAA化すると言うことはビジネスの面が大きくなるということからは目を逸らせません。

更に もう一つ、桐生選手が出た大会などはアメリカのNCAAの規則にのっとると、大学生は賞金が出る大会には出られなくなったりします。 日本の大学生は賞金をバンバン稼いでいますから、アメリカのルールをそのまま持ってくると、適応の問題が出てくる場合がありますよね。 日本では、学生がオリンピックに出るときは休学にするか、それとも、もう少し緩くするのかなどを考えて整備する必要が出てくると思います。

 原田

 ありがとうございます。 今の安全、安心だったり、学業っていう議論に合わせて、収益化に関してはスポーツ庁ではマイナスをゼロにするとのことですが、目を逸らすことの出来ない議論だと思います。仙台さんはどう思われますか？

 仙台光仁 スポーツ庁参事官(以下、仙台)

 安全性の確保、学業の充実も先立つものはお金です。 学生が払う、大学からの支援を受けるという形だが、大きくなれば難しいですよね。 大学が様々な地域貢献とか、様々な価値がある。それらを学生にボランティアでやらせるなどがあるが、そこをどう収益化するか。 アメリカNCAAもそこに行くまで100年かかっているから、スモールスタートで徐々にやっていきたい。日本独自のやり方でやっていきたいと思います。 今はそれぞれ縦割りになっているが、いいところを横展開していくことが必要です。 まずは、学生の部費が100円でも200円でも安くなれば進歩だと思います。

 原田 

具体的にどう対処していくかお考えでしょうか？

 仙台 

それはこれから対処していく問題です。アメリカのNCAAの会長も、NCAAの在り方自体も変わっていて、今のままではいけないから、日本独自のやり方でやるべきだと思っています。 大きな借金を背負って、大きなスタジアムを作っても、年に数試合しか行わず、大きな赤字になっている、なども聞いたことがあります。

 原田

 為末さん、日本に合う統括組織ってどのようなものだと思いますか？

 為末 

各協会・競技によって違うような気がします。 例えば、陸上競技で行くと、成り立ちは大学ではなく各地方からであり、日本陸連が後からできたみたいな経緯がありますし、 逆に最近できたトライアスロンのようなスポーツは統括組織からできました。

 具体的にどういうものがいいかは問題を把握しなくてはわかりませんが、 まず思うこととして、「スポーツが人間の成長を促すのか」という議論がふわっと終わっている気がします。 私が競技をやってきていいことがあったか？ オリンピックに行ったけど人生良くなったっけ？と。 22で諦めて、社会に出て、商社とかに行ったやつのほうが幸せそうにも見えるんですよね。 僕らはスポーツをやってきてよかったとは思っていますが、スポーツが一体人生に何をもたらすのか？ということをもう少しちゃんと議論し、プロ、アマチュアなど、「ハイレベルでないところにも重要な意味がある」などと、いろんな側面において、まずそこをしっかり定義してほしいなと思います。 私がそれについて思うことは、 アメリカにいた時の話になりますが、 NCAAが出したバスケットのCMの中で、日本でイメージすると箱根駅伝のCMのようなものですが、CMの最後に「この中の99%がバスケット以外のプロ選手にならなきゃいけない」というコピーで現実を映し出すCMがありました。 日本でもこのような現実を認めて、発信していく統括組織であって欲しいと思います。