【全文公開】大学スポーツシンポジウム  パネルディスカッション②


原田 

スポーツビジネス、普及スポーツ、競技スポーツの相互作用が起きていないからこそ、日本のスポーツは発展しなかったと考えられます。 日本では圧倒的に競技スポーツの側面が強いと思う。 ある産業界の方が言っていたんですけど、吉田選手がレスリングで国民栄誉賞を受賞したのはありえない、あれだけ国が衣食住にお金を割いて、メダルを取るのはある意味当たり前で、あれほど評価されるのはおかしいと。 それは東ヨーロッパとやっていることは同じで後進国型であると、先進国型は各スポーツ界がお金を稼いで、そのお金でメダルを獲得するのが理想だという考えを話す方もいらっしゃいます。 日本でこの3つのアクターが相互作用を起こせないのは、何が原因なのかと思いますか? 


 為末 

これが、大学スポーツの括りに限ることなのかはわからないが、 スポーツでお金を稼ぐのはまずいというマインドがある。 私は今、スポーツビジネスを作ることを一生懸命やっているが スポーツを取り巻くみんなが食べていくためにも、スポーツにおけるビジネスは必要だと思う。 一番大きい問題はマインドだと思います。


 原田

 安西さん如何でしょうか?


 安西

 話の論点がずれるかもしれないが 体育会の学生へ言いたいのは、 年間予算1千億円の予算を持つ大学があるとして、そのかなりの部分を体育会の施設に使います。 少なく見積もって、その1%の10億円を毎年投じている。 体育会学生2000人とすると、大学が一人50万円を投じている。他の学生には投資していない。 それをその分貢献してもらいたい。 大学に対しても、社会に対しても貢献してほしい。 そのように考えたときに、学生には主体性を持ってほしい。 私は競技横断的な統括組織ができればいいと思いますが、そういったことをやっていくためには、学生がこのような事実を共有してほしいと思います。 その上で、やはり為末さんも仰ったように、大掛かりなことをするにはお金が必要です。 しかし、お金で動かされるのではなく、主体的に自分たちが大学スポーツを推進していく、それが日本のどこかの場面において貢献できる、ということを大事にしてほしい。 学生が主体的に率先し、「ここでお金が必要だから」と他の大人たちを巻き込んでいき、着実に進めていくことが大事だと思います。 主体性、お金、施設、誰によって生かされているのか、それらを有機的に連結させて考える必要があります。


 原田

 実際渡辺さんは慶應義塾の体育会学生ですけれども、いかがでしょうか? 渡辺 いかがでしょうか、とは? 原田 体現できていますか?


 渡辺 


できると思います。今仰ったところで、体育会学生はどういったところを果たしていかなければいけないのかというと、もちろんいわゆる文武両道みたいなことを言っていると思うんですけれども、やっぱり一般学生の模範にならないといけないし、一般学生から「いいな」と思われる存在でないといけないと思っていて、学業成績というところを今話されていますけれども、言ってしまえば体育会の学生は顕著に表れているかもしれませんけれど、一般学生でも日本には勉強しない人がいるわけでそういった中でしっかり学生アスリートが勉強する、かつ部活もする、こういうのをしっかりと果たしていく、そこがまず求められると思います。


 安西

 私は文武両道にも厳しい見方をしています。特に体育会生には両方覚悟を決めてやるべきだと言いたい。 勝利至上主義は論外ですが、大学を背負って叩く者として勝つことは追求しなくてはなりません。 それは、模範学生としての態度であり、自分を厳しく見ていただきたいと思います。


 原田

 ありがとうございます。 今後、拡大するためにはお金が必要になるという話もありました。 先ほど、為末さんからもありましたが、アメリカのカレッジフットボールのコーチはざらに7億8億のサラリーをもらっていて、公務員の中で最も給料をもらっているがカレッジスポーツのコーチであるような州が多くあります。学生はほぼお金をもらっていない訳ですから、かなりのアンバランスな状況であると思います。 野田さんはどう思われますか? 



 野田

 商業化っていうところに関しては確かに私は2013から2015年にアメリカにいたんですけど、確か2014年にNCAAのアスリートが労働組合を作った、なんていうニュースを向こうで見て、大学の関係者のたちも本当にNCAAやばいんじゃないか、みたいな話をしていて、大学生でこれだけの収益を生み出しているのに奨学金としてはをお金もらっていますけれども、競技で給料はもらっていない、っていうような状況で、さらにプロに上がったとしてもプロ選手でやっていけるのは本当に数年ということですから、大学で自分が一番輝けるときに、もう少し収入があったのであればその後の人生は変わったのではないかという意見がニュースで出ていて、そういったことが問題になっているということを私ははじめて知りました。環境が整備されていて、日本の大学に比べて良い面にしか目が行っていなかったんですが、そんなニュースを見て、問題になってしまうんだということを知りました。

ただ、それって、どこで起きている問題か言えば、NCAAでもディビジョン1の本当に稼げる大学、稼げる競技での問題だと思っていて、それ以外のディビジョン2、3の大学でこのような話が起こったということではありません。

稼げる競技というのは本当に決まっていて、本当にトップレベルの、先ほどもありましたけれども、アメフトだったり、バスケだったり、それも男性スポーツに限られているのだと思います。さらにその収益といったものが、ショービジネスとして大学に還元されてしまっている、そういったところから、その仕組自体にも問題があるのではないかと思っています。

ただ、私がいたディビジョン2の大学でそういったことを感じていたかといったら全くそんなことはなくて、私だけではなくてきっと同じ大学の子はそうだったと思うですけれども、私の女子サッカー部の監督は小さな大学ということもあってアスレチックデパートメントのディレクターを兼任されている方で、サッカーだけではなく、大学の全スポーツの統括をされていました。そのコーチが、毎年シーズンが始まる前のプレシーズンに2週間くらい1日2部練習を続ける日があるんですけれども、そこではじめてチームが合流して「今年も頑張っていこう」というところで、まずはじめにコーチが、私たち学生アスリートに言ったことっていうのは、「君たちの優先順位、プライオリティは学業だ。」とはっきりと私たちに言っていて、「授業で何か困ることがあるならば練習を休んでもいい」ということを監督はおっしゃっていました。でももちろん休む子はいなくて、みんな本当に競技を今までやってきて大好きで、そこでも高みを目指した子がスチューデントアスリートでいられたと思っています。なんですけど、学業というのはもちろん大変で、毎日宿題が出る中で、自分たちの競技もやらなければいけない。さらにシーズン制だったのでシーズン中は週に2回試合が入ったりだとか、そういったところで学生が学業もできるようにするルール作りをNCAAはしていて、例えばシーズン中、そしてもちろんシーズンオフの機関についても、チーム全体で練習していいのはどれだけか、決められていました。さらに、学業で問題があったとき、学生アスリートは皆GPAを確保しなければいけなかったんですけれども、それが難しい選手も中にはいて、そういった選手のことをコーチが皆チェックしています。次試合に出られなくなる、というのを前もってチェックしていて、そういった子がいればコーチからアプローチをしていました。

また、学生アスリートへの支援に関しては、私の大学でも、そういった学生アスリートへの学業支援をしてくださるアカデミックアドバイザーという方がいて、そこと体育会のアスレチックデパートメントの方々との連携も取れていて、勉強が難しい選手に対しては勉強の仕方をまず教えるようなサポートをしてくださる方もいました。私は英語が本当に何も分からなったので、その方に本当にお世話になって卒業もできましたし、競技の方も続けることができました。 

あともう一つ先ほどの点でいうと、大学でスポーツをして、アメリカの大学でやって感じたのは、これ私自身だけかもしれないんですけれども、私は日本にいた時、学生であるにも関わらず自分のことをアスリート、選手だと思っていて、自分の価値というものが、スポーツのパフォーマンスが悪いとそれで決まってしまうような気がしていました。ただ向こうに行って思ったのは、私の大学では半分がインターナショナルスチューデント、海外からきた大学生で、その人たちはほとんどが国の代表選手の人でした。そういう子たちが自分とすごく違うなと思ったことが、彼らは自分が学生アスリートだということを認識していて、自分のアイデンティティが必ずしも選手だけになっていない、自分の存在価値が選手としてのパフォーマンスで全て決まるのではなくて、いろいろな学生として何を学んでいくだとか、どんな貢献をしていくのか、自分は何者なのか、というのがいろいろな側面から捉えられていると感じました。

さらに、すみません、長くなってしまうんですが、私は2シーズン目の時に、NCAAの全国大会にあたるFINAL4、準決勝と決勝の大会に出場することができました。チャンピオンシップの一番最後のところになります。大会が始まる前のバンケットで表彰される人がいたんですね。まだ試合もしていないのに、表彰式?と思ったんですけれども、そこで表彰されるのは、4校の選手の中で一番高いGPAを収めて、さらにオンザピッチでもセミファイナリストのところまで到達した、本当に文武両道を達成した人が表彰されます。これは本当に名誉あるもので、NCAAのウェブサイトでもすぐに写真が載っていました。そんなところからも感じることがありました。 

 原田

 学生アスリートとしての価値が競技のみで図られてしまうのは本当にもったいないと感じます。 

日本の学生アスリートが競技に振り切ってしまっているのは中高の部活システムに支えられていると感じています。 高校にスポーツクラスを設置しているといくらでも練習できる環境がありますし、指導者も本当に練習させるようなトレーニングプログラムを組んでいる方が多いです。それの入り口対策として大学側が、学力面での統一的な試験を設けようというのが事前勉強会での結論でした。

 高校スポーツの話に転換しますけど、為末さんはどういった改革が必要だと思われますか? 

 為末

 もちろん、日本の高校スポーツにもいい点はあると思います。アジアの国々に行くと日本の部活制度が羨ましいと言われます。 ブータンはボランティアでいろいろな人が入れる部活動文化を作りたい、という。 ただ、日本には競技だけに集中の一意専心文化があると思います。 スポーツというのは、日本人の心理的特徴が顕著にでる部分があり、そこに紐付いていると思います。 その特徴というのは、始めたらやめない・二つのことはやらない・上には逆らわない ということで、日本の部活動というのはこのようなことが象徴的に出ていると思います。

 日本のスポーツ組織は日本陸軍の組織を研究した「失敗の本質」に書いてあるようなことに陥りやすいように感じています。 スポーツを通じて、どのようなことを競技で成し遂げるかを最初に議論するのではなく、どのような人間を育てたいかを定義し、それをどうスポーツで実現するのかという順番が大事だと思います。

 原田

 個人的にこれからの時代では、競技スポーツよりも普及スポーツのプレゼンスが上がる方が重要だと思っています。 スポーツがレジャーの、余暇の活動の一環としてもっと手軽に楽しくやれればいいという考え方も重要で、人生100年時代における、余暇の充実の手段として、手軽に楽しめる、スポーツというのは本当に重要だと思います。 そして、僕自身もプロを目指しているわけではないですし、体育会生の中には、スポーツをこのままやっていて本当に人生が豊かになるのかなと揺らいでいる人も多いと思います。 最近は人間の動きのメカニズムや、戦術などサイエンスの面でスポーツを飛躍させる研究が進んでいますが、現在すごく抽象的なままにされているスポーツの社会的価値といものを真正面から研究して可視化することが必要なのではないかと思います。話が少しそれましたが、体育会生に向けて、為末さんが考える大学スポーツをやる価値というのなんだと思いますか?

 為末

 二つあると思います。 ヨーロッパに行ったときに話を聞いた、ヨハンホイジンガという「遊びの哲学」という本を書いた人が好きなんですが、ヨーロッパには「スポーツには全く意味なんてないよ、でも人生を楽しむためにあるんじゃないか」という人が多くいました。 

日本人の良いところでもあると思うのですが、日本人は全てにおいて何か学ぼうとしすぎるところがあると思います。フランス人とかはスポーツっていうのは楽しくやれればそれで良いじゃないか、それがスポーツじゃないか、って考えてる人が結構いるんですよね。 日本でももっといろんなスポーツがある状態でうまく成り立てないかと思います。 高みを目指すスポーツ・学ぶスポーツ・楽しむスポーツ、 日本の部活動の先生で勝つ以外の価値観があまり持っていない方が多いのではないかと感じます。楽しむ部活動、学ぶ部活動、色々な部活動のスタイルがあって良いのではないでしょうか。 

 仙台

 スポーツはそもそも楽しいものという意味が語源らしいですけど、スポーツをやって楽しむことが大事だというのは大前提です。 為末さんがスポーツというのは手段であると仰っていましたが、私も非常に共感しておりまして、スポーツというものは楽しむ手段でもあると思います、一方で自分の大学を背負って戦うという誇りを持つというのも大学スポーツの素晴らしい価値だと思います。様々なスポーツが大学で盛んになれば良いと思っています。 現在は、運動部は運動部、その他はその他で分断されていますけど、アメリカでは地域を挙げて盛り上げようとする文化があって、それが大切だと思います。 私自身、大学時代運動部に所属しておりまして、最近後輩の応援に行ったのですが、OBと他の選手だけが応援していました。これはあまり良くないなと。

 原田

 藤井くんは長年大学スポーツを取材されてきたと思いますが、大学スポーツの良さはどういったところにあると思いますか?

 藤井

 スポーツに興味をもたせるのに大学スポーツはすごく良い環境だと思っていまして、部活動の幅が高校よりも広くて、アーチェリー部に友人がいるのですが、もともとサッカーをやっていたそうです。怪我をしてできなくなって、大学に入ってからアーチェリーというスポーツと出会ったそうです。マイナースポーツという言葉が自分はあまり好きじゃないんですが、やるプレーヤーとして新しいスポーツの楽しさに気づける、という大学スポーツの良さだと思います。見る人にとってもそうで、自分はサッカーにしか興味がないような人間だったんですが、他にも野球陸上水泳バスケアーチェリーの面白さにも気付くことができました。そういう幅広いスポーツの楽しみ方を見つけることが出来るのではないかと思います。バスケに関してはBリーグにも興味が湧いて観に行ったりしています。スポーツを見る人にとっても、プロのスポーツを観に行く入口として大学スポーツの価値もあるのではないかと思います。 


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